パーソナルコンピュータと人間のインターフェース(英: man-machine interface, 以下HMI)についての散文。
電子コンピュータは80年以上の歴史を持ち[Copeland 2017]、その間様々な用途を見込んで様々な形態のコンピュータが考案され、使用され、普及し、破棄されてきた。
生物の歴史と同じように、コンピュータも用途別に様々に特殊化し、ニッチを見つけた分岐が生き延びてきた。あるものは処理能力を肥大化させスパコンになり、あるものはパケットを食べるルータになり、またあるものは家電に寄生し共生するマイコンになった。
生物の進化と違うのは、(少なくとも現在まで)コンピュータは子孫を残すために人間の手助けを必要とするということだ。次世代のコンピュータは適齢期のコンピュータと人間の共同作業によってデザインされてきた。
将来はシリコンの採掘からコンピュータのデザインと製造まで、すべてコンピュータが行うような、RepRapが夢見た日が来るかもしれない。人間が不要になるその日まで、コンピュータは人間と蜜月の関係を保ち続けるだろう。環境破壊が今のペースで進行して、2050年頃までに海の藻類が絶滅して酸素濃度が下がって人間がいなくならなければ。(https://www.youtube.com/watch?v=YsA3PK8bQd8)
人間と関係を結んできたコンピュータの中でも、パーソナルコンピュータ類は特に人間と密接に関わるために多様な器官(HMI)を発達させてきた。
パーソナルコンピュータの歴史はHMIの歴史だ。この記事では簡単にこれまでに生まれたパーソナルコンピュータの一部をHMIの観点から分類し、検証する。
様々なアプローチを見ていくうちに、これまで辿られなかった進化の枝に、有用なものが見つかるかもしれない。
- パーソナルコンピュータ: CPU,RAM,HDD/SSD,ネットワークカード等を搭載した機器のうち、個人が所有/使用するものの総称
- インターフェース: 接点、境界面、接触面、接合面、仲立ち、橋渡しなどの意味を持つ英単語 (IT用語辞典 e-Words)
- HMI: HMIは人間が機械を操作したり、機械が現在の状態や結果を人間に知らせる手段やそのための道具のことを指す (IT用語辞典 e-Words)
最初に、既存のセットアップのうち特筆すべきものを登場順に列挙し、使い勝手や人間の健康への影響について筆者の視点から比較する。
ブログ媒体に合わせ、網羅的ではなく大雑把にまとめる。
LEDアレイ+トグルスイッチアレイ
AltairやIMSAIなど最初期のパーソナルコンピュータで用いられた方式。LEDのオン/オフ、スイッチのオン/オフがデジタル信号のHIGH/LOWにダイレクトに対応する。
長所、短所は省略
50以上のキーを備えたキーボード + 10インチ以上のディスプレイ + ポインティングデバイス
ミニコンやダム端末の時代から用いられてきた枯れた(◆1)方式。人の手の大きさに合わせたキーボードと、比較的大きなモニタによって特徴づけられる。
GUIの登場に合わせマウス、トラックボール、ペンタブレットなどのポインティングデバイスが追加された。
長所
- 人の手の大きさに合わせたキーボードを使用して自由入力テキストを正確に、比較的高速に、視覚に頼ることなく入力することができる。
- 大きなディスプレイは一度に大量の情報を、構造とともに提示できる。
- ポインティングデバイスにより、比較的高速に画面上の任意の点を指示でき、ボタンなどの物理機構をエミュレートでき、また自由描画が可能。
短所
- 基本的に、画面に向かって姿勢を固定して操作する必要がある。
- 通常の運用においては特に、机に向かって椅子に座っての操作を強制され、自由な姿勢での操作は制限されることが多い。
- 長時間の使用は肩こり、痔、腰への負担などの弊害が出やすい。
- 主に視覚をターゲットに情報が提示されるため、画面を注視する運用が多くなる。眼精疲労の原因になる他、周囲の状況の把握がしづらい。
- 上記2点に加え、機器のサイズから利用シーンが限定される。
- 小型化に限界がある。
小型グレースケール液晶 + 小型キーボード (+ ポインティングデバイス)
ポケコン、初期のH/PC、初期の携帯電話などで採用された方式。キーボードには様々な配列が採用された。
長所
- 機器の小型化が可能で、携帯性に優れ、取り回しがしやすい。
- キーボードの実装にも依るが、IMEによる変換を要しない場合、タッチタイピングが可能。
- 操作姿勢の自由度がノートパソコンと比較して高い。
- 明るい部屋で使う場合バックライトが必要ない。
- 消費電力を下げられる。
- 環境光で見るため、目が疲れづらい。
短所
- 画面が小さく、一度に提示できる情報量が少ない。
- 大型のキーボードに比べて、入力速度が落ちる。[要出典]
小型フルカラー液晶 + 小型キーボード(or初期のオンスクリーンキーボード) (+ ポインティングデバイス) + Wifi/Bluetooth/PHS
PDA、H/PC、UMPCなどで採用された方式。この頃のオンスクリーンキーボードには手書き文字認識やジェスチャー入力などの意欲作もあった。
無線ネットワーキングが標準搭載されるようになった。
短所
- バックライトが必要で消費電力が増え、目が疲れやすい。
- 無線帯被爆による健康被害 (Martin 2018)
小型〜中型(高密度)液晶 + 予測付きオンスクリーンキーボード + タッチスクリーン + (ASR+TTS) + Wifi/Bluetooth/Cellular
スマートフォン、タブレットなどで採用された方式。
ASR(音声認識)とTTS(テキスト音声合成)が搭載されることもある。
セルラーの電波塔との広帯域/常時通信が一般的になった。
長所
- 機器の小型化が可能で、携帯性に優れ、取り回しがしやすい。
- 操作姿勢の自由度がノートパソコンと比較して高い。
- キーボードのレイアウトが入力シーンに合わせて変更されて便利。[要出典]
- 自然言語の利用に限りASRが実用レベルに近づいた。
- TTSが高性能。
短所
- バックライトが必要で消費電力が増え、目が疲れやすい。
- 入力予測を使用する場合、入力中に画面を注視する必要がある。
- 落とすと画面が割れる。(なぜかガラスを採用したものが多い。変わりつつある?)
- 最近は焼け付きを起こすディスプレイが出てきた。
- 大型のキーボードに比べて、入力速度が落ちる。[Patti 2011]
- ASRの利用にネット接続が必要。
- 見かけより重いため、小指に障害が出る。
- 無線帯被爆による健康被害の恐れ(NTP 2018)。広帯域化に伴いデバイスが放射する電磁波強度が上昇している。
- 歩きながらの利用による事故が多発
超小型液晶 + タッチスクリーン
スマートウォッチなど。小型で身につけられる。画面が小さすぎる。
単眼ディスプレイ + コーデッドキーボード
クラシックなウェアラブルコンピュータ。
長所
- 歩いたり人と会話したりしながら使える。
- 姿勢の自由度が高い。
短所
- 片目が疲れる。
メガネ型ディスプレイ
現時点で決定打がない。
マイク + スピーカー
スマートスピーカーが採用。
長所
- 画面を注視する必要がなく、目が疲れない。
- 電磁放射源から距離を取ることができる。
- 姿勢の自由度が非常に高い。どんな姿勢でも使える。
短所
- スマートフォンに搭載されているものと同様の仕組み
- ネット接続が必要。
- AIが貧弱で、できることが限られる。
- 盗聴器として機能する。
今回はここまで。思いつき次第追加する。次回はUIの観点からの分類を行う予定。
この記事は以前の記事の続きです。
Refs:
Copeland, B. Jack, “The Modern History of Computing”, The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Winter 2017 Edition), Edward N. Zalta (ed.), URL = <https://plato.stanford.edu/archives/win2017/entries/computing-history/>.
Patti Bao, JeffreyPierce, Stephen Whittaker, Shumin Zhai “Smart Phone Use by Non-Mobile Business Users” https://people.ucsc.edu/~swhittak/papers/MobileHCI2011_FINAL.pdf
Martin L. Pall “Wi-Fi is an important threat to human health”
The National Toxicology Program “High exposure to radio frequency radiation associated with cancer in male rats” https://factor.niehs.nih.gov/2018/11/feature/1-feature-radiation/index.htm
◆1 枯れた: 十分に普及し、知見が蓄積されている様。主に肯定的に用いられる。
Nov 26 2019 Minori Yamashita